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最高裁判所第一小法廷 昭和54年(オ)835号 判決

上告人

岩城隆徳

右訴訟代理人

山田慶昭

被上告人

広島県

右代表者知事

宮沢弘

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人山田慶昭の上告理由について

土地区画整理事業の施行地内にある特定の土地につき将来それが別の特定の土地に換地されることを前提として右従前の土地を目的土地とする売買契約が締結された場合においても、そのとおりの換地がされるかどうかは一応浮動的であるから、万一当初予定されていたような換地がされないことに確定したときは、当事者が当初意図した目的は達せられないことになり、したがつて、このような場合にはあるいは契約の目的たる権利又は物に瑕疵があつたものとして売主の担保責任に関する民法の規定を類推適用する等の方法によつて契約関係の合理的処理を図る必要が生じうるけれども、右のような事態が生ずるまでは、従前の土地につき締結された売買契約は有効な契約として存続し、当事者は右契約に基づく権利を有し、かつ、債務を負担するものと解すべきものである。本件において、上告人は、被上告人の施行する土地区画整理事業の施行地内にある第一審判決添付目録第一及び第二の各土地が同目録かつこ内の各土地に換地されることを予定して被上告人からこれを買い受け、その後予定されたとおりの各換地処分がされたけれども、右各換地処分及びその基礎となつた換地計画には重大かつ明白な瑕疵があつて無効であるから、前記売買契約も無効であり、上告人は被上告人に対し右契約に基づく売買代金債務を負担しない旨主張するのである。しかしながら、仮に上告人の右主張のとおり前記換地処分等に無効の瑕疵があるとしても、そのことだけからは当然に売買契約で予定されたとおりの換地がされないことに確定したということはできないから、これによつては上告人は被上告人に対し右売買契約に基づく売買代金支払義務を免れることはできないといわなければならない。よつて、上告人の右主張を排斥した原判決は、結局正当というべきであり、論旨は採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(中村治朗 団藤重光 藤崎萬里 本山亨)

上告代理人山田慶昭の上告理由

原判決には判決に影響及ぼすこと明らかな法令違背があるので破棄を求める。

一、原判決は

控訴人が第一、第二記載の換地処分の無効事由として主張するいわゆる一坪換地であるとの点ないしは照応原則に反し減歩率が過大であるとの点は控訴人において売買当時了知していた筈であり、その他第一、第二記載の換地処分になんらかの瑕疵ありとしても、控訴人の主張によればそれらいづれも換地計画の瑕疵にもとづくものであり、かつ無効事由として明白性を具有しているというのであるから、売買当時控訴人は、これら主張の瑕疵事由の存在を知つていた筈である。

したがつて、仮に、控訴人主張のように第一、第二記載の各換地処分が有効であるとしても、その結果招来される事態、すなわち、本件(一)、(二)の売買当時取得することを予定していた第一記載の舟入川口町所在の土地、第二記載の西川口町所在の土地は、これを取得し得ないこと、あるいは、これと地域、地積を異にする土地を取得することとなる事態に至ることも予測していた筈であるから、これら事情を了知したうえで、本件(一)、(二)の各売買を締結した控訴人は、その結果招来される前記事態は、売買当時これを予測し容認していた筈であつて、特に錯誤その他、その売買の意思表示に瑕疵あるものとは解されない。

と認定した。

確かに減歩率が過大であるとか、一坪換地であるなど広島県知事の行つた仮換地指定処分が明白な違法性を帯びていることは原告も本件売買契約当時承知していた。しかしながら強大な権力を握つている行政庁に比し一介の私人である原告が一人で太刀打ちできる筈もなく、当初は泣き寝入りもやむなしと考えていた。従つて原告が所有していた元地の面積に近い面積の土地を確保するためにやむなく知事のすすめで本件二筆の元地を買受けたのである。

その後多数の市民土地所有者から広島県知事の施行した広島平和記念都市建設一事業西部復興土地区画整理事業につき、一数多くの違法ありと糾弾する声が大きくおこり広島地方裁判所に集団訴訟として提起することとなり、四百名を超す権利者が原告となつて提起した。このようななかで原告も泣寝入りすべき時期ではないと判断して原告団に加わつた者である。

その訴訟において数多くの違法事由を挙げており現在証拠調が行われている。

原判決のいう

換地処分が無効であるとしても……これら事情を了知した上で……各売買を締結した控訴人は、その結果招来される前記事態は……予測し容認していた筈……

というのは明らかに誤りである。

当初は原告は泣寝入りせざるを得ないと思つていたのであるから判決によつて換地計画換地処分が取消されること迄は予測していなかつた。

仮に予測していたとしても換地計画及び換地処分が取消されることになれば売買の目的物の属性が全然違つたものになる以上売買契約が無効であることは明らかである。

「現在かような換地処分がされている以上……」

と原判決は述べているがそれは別件の集団訴訟(広島地方裁判所昭和四四年(行ウ)第三二号他)において審理中であるからでありその判決により換地計画換地処分が取消されるものと上告人は確信しており、そのような判決により換地処分のやりかえが行われる点を看過した原判決の違法は明らかである。

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